911は600馬力の向こうに何を見るのか

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技術力の躍進というのは素晴らしいことであるが、
その行きつく先には一体何が待っているのだろうか?
必ずしも幸せなのだろうか。

家の固定電話がなくなり携帯へ、
24時間ドコでも繋がることも出来るが、
24時間ドコでも誰かから追いかけられてしまう。
今や世界中でドコでも電話やメールが繋がるという今…

今回は911の向かう先の話。

標準車の新型カレラで370馬力、
現行ターボで520馬力、
現行ターボSで560馬力、
ポルシェは一体ドコに向かっているのだろうか?

このまま数年続くと、
カレラは400馬力に突入して、
ターボは600馬力に突入していく、
そんな世の中が本当に訪れるのだろうか?
そしてそれは幸せな結末なのだろうか?

とりあえず今のところは幸せではなさそうである。

もちろんポルシェが行き着く最終目的地は、
レースでの絶対的かつ圧倒的な勝利だ、
これは全てのポルシェユーザーがDNAの奥底に刻まれており、
そのレンシュポルトのDNAが全てのプロダクトに宿っている。
ポルシェはそんな戦闘的なブランドだ。

一般カスタマーがプロダクトを手にする時に、
それらのほとんどをストリートで享受することになると思われるが、
これから先のポルシェは本当にその魅力を、
カスタマーに余すことなく提供することが出来るかどうかは、
正直断言しづらい。

ここ最近空冷ポルシェが異常なまでに高騰して、
多くの人たちをトリコにしているのは非常に理解し易い現状だ。
なぜなら空冷ポルシェはストリートに於いて現行車と比較して、
路面情報量を多く取得でき、
かつその出力の全てを開放し易いからである。
現代に於いては極めて遊びやすいバランスのとれたクルマということだ。

裏を返せば遊びやすいクルマが減ってきているとこうこと。
ガタイが大きくなり過ぎて、
馬力が大きくなり過ぎで扱いにくいクルマが増えている。
おまけに無数の電子制御でがんじがらめだ。

ポルシェ贔屓で見れば、
ポルシェはもはやストリートで本領を発揮しきれないようなクルマ、
に911ブランドを引き上げようとしているのではないか、
と邪推していたりもする。

400馬力を超えた911はもはや、
そのステージをストリートからサーキットへ変え、
フェラーリやランボルギーニの棲息するゾーンへ、
いわゆる600馬力の地平線を超えスーパーカーゾーンへ、
自らを昇華させようとしている、
そんな風に見えたりもする。

そんな中一方では、
911モデルに於いては今や数えきれなくなったくらいの、
派生モデルをこれでもかという数を用意しているあたりが、
「我々は一般カスタマーさまをまだしっかり見ていますよ」、
を全身でアピールするポルシェの商売上手っぷりを感じる。

現状から察するに、
現行のポルシェが911でやろうとしていることは間違いなく「RS」路線である。
「レーシングをストリートに」である。
このRS路線のブランドの方向性は理解・納得であるが、
RS路線上にある馬力が「行き過ぎ」なのではないかという話である。

たぶん911はこのまま馬力がまだしばらく青天井で上がっていくだろう、
いずれフェラーリやランボルギーニと肩を並べる日が来るに違いない、
これはポルシェの宿命でもあり仕方のない運命だ。
このあたりの戦争は役物のターボやGT2やGT3に任を任せたいものだ。
もちろんこのパワーウォーズに於いても負けて欲しくはない。

初代986ボクスターが206馬力でスタートして、
20年近く経つがその馬力成長は265馬力。
明らかにポルシェはストリートの大衆向けに、
意図して馬力を押さえ込んだボクスターとケイマンをボトムラインに据えて、
911をスーパーカーに昇華させようとしている。

世界のポルシェファンはこれをどう思うだろうか?
いつの間にか911は庶民がストリートで乗れないクルマになってしまうのか。
一方でポルシェの頂点にはカレラGTでも918スパイダーでもなく、
大衆が頑張って手を伸ばせば届くかもしれない911が座っていて欲しい。

クルマを操る楽しさというのは、
アクセルを全開で数秒踏み抜くという楽しさであると思っている。
その持てる動力性能の全てを開放して、
駆動輪に全てを委ねてコーナーを駆け抜ける気持ちよさ、
そんな気持ち良さを昨今の911はストリートで簡単には味わせてはくれない。

サーキットに持っていけるごく限られた人々しか、
その911の旨味を味わうことが出来なくなりつつある、
モデルレンジの裾野は広がったように見えるが、
911の味わいを引き出せる人々は相当狭まってきているようも感じるし、
もしかすると最近911に乗り始めた人は気付けてもいないのではないか。

ポルシェが自身で、
レーシングエクスペリエンスプログラムを始めたのは、
そんな理由からなのではないだろうか。
ポルシェの作った超本格中華鍋は、
類稀な超火力がなければその本領を発揮出来なくなってしまったようなものだ。

分かる人にだけ分かってもらえれば良いという911、
より多くの人に広く受け入れて欲しいケイマン・ボクスター、
911が庶民の手から離陸してしまう日はそう遠くはないかもしれない。