夜の湾岸で放つターボS

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993ターボSを繰り出す。
(前編からどうぞ)


あれ?
壊れてる?
と思う位に軽いクラッチタッチ。
踏み込むというより、
脚をそのまま降ろすだけで、
操作ができる感動的な軽さ。

ターボクラスにはレリーズのアシスト機能があり、
ノーマルカレラ比でも随分と軽い仕上がりとなっている。
シフトもしなやかでスムーズに入る。

ステアもクラッチもミッションも軽く、
いずれのアクションもマイルドでしなやか。

この時点でターボの躾の良さと、
GTカーとしての素質に、
カレラのそれらとは、
根本的に異なっていることを改めて認識。


また青銀ポルはいろんな意味で、
かなりソリッドに仕上げているので
各操作系が重厚になっていることも再認識。
ターボの後に自分のクラッチを踏むと、
こっちこそ壊れているのでは?
と錯覚を起こすような重さだった。

さて、
ホテルの地下駐車場から一般道へ出てみる。
ターボSというスペチアーレの舵を握る手が冷たい。

ワイドフェンダーが気になり、
サイドミラーにチラチラ目をやるが、
どうやら都内の狭い車線からは、
ハミ出していないようだ。

ツインターボの430馬力は、
街中で扱い辛いかと思いきや、
軽く踏み込む程度では獰猛なターボの気配は見せない。
ブーストの掛からない負圧域でも、
その動きはまったくもってスムーズだ。

車重とトレッドもあるが、
随分とラグジュアリーな乗り味を披露する。
タイヤのセレクトと、
比較的柔らかいバネレート効果なのか、
さながら同じ993とは思えないライド感。

近くの都市高速ランプが見えた。
「早く、このガスペダルをフラットアウトしてみたい…」

前走車のいないクリアなランプを潜り、
加速車線に入りウインカーを切り
本線にチラリと目をやった瞬間…
ハッといつもとの違いにカラダが反応する。

明らかにいつもの自分の車とは違う、
「豊満な中間加速…」に脳ミソがプルつく。

しかも唐突に来る速さではなく、
5000CCクラスの、
大排気量車に乗っているかのような、
「息の長い加速」をみせる。
(これが、空冷ターボの加速…)

乗りはじめからずっと感じていたが、
不思議な心地よさ。
初めてのクルマだけど、
シフトスケジュールがキレイにシンクロする。
(同じ993の6速だからか?)

アタマはすぐに冷静になった。
合流してしばらく流れに任せ、
クリアを見つける。

再びガスペダルを優しく奥に押し込むと、
20年前に生産されたクルマとは思えないような、
むしろターボSは最新のクルマのように、
平然とした身のこなしとサウンドで、
いつもの巡航速度をあれよという勢いで通り越して見せた。


ツインターボ過給で430馬力、
C2の270馬力と160馬力の差は、
想像していた以上に大きく高く感じた。
やはりC2とターボは棲む世界が違う…

C2とは異なる、
ダッシュ力とその盤石な安定感。
全体的に「後ろが強い」「後ろが中心」なイメージだ。

4系ということもありフロント下回りも強いが、
リアの盤石感がとりわけ印象的。
リアの装備が補器類で重いということと、
エアロがそこそこ効いているように体感できる。
「でもまだ分からない…」


旋回モードに入り、
いつもカレラより早目の速度で進入をしてみる。
体感としていつもより速いので、
脳が一瞬拒否って毛穴が開くような感じがする。
ステアリングを握る手に汗を感じる。

それでもターボSは、
フロントをグイグイと反応させて、
「全然大丈夫」と言いなから、
コーナーをズイズイと旋回していく。
「何?進入角度を気にしてるんですか?」
と言われたような気がした。
(C2は進入の姿勢作りですべてが決まる)
(確かに4系はいつもこういうリアクションをする)


「ん?リア接地が広く!長い!」
4系でフロアの強さもあるが、
リアのトレッドの広さも、
旋回がダイナミックに感じる一因に感じた。

リアに重さがある分、
C2系より、
旋回はリアよりを軸に回っている感じがする。


今度は首都高エリアから、
湾岸エリアに出て一瞬のクリアを伺う、
横浜方面だ。

川崎航路トンネルなど、
路面は所々バンピーだが、
四駆ということもあり、
あえてそのまま気にせず派手に踏み抜いてみる。

不正路面を矢のような速度で走ると、
不意にボディが突き上げられる。
確かにリアはバウンドすると、
重量感を持って着地するが、
クァンタムハイパコがそれを1度で受け止め、
一発でキレイ収束する。
カレラにはない重量感だ。

この速度域と、
この路面状況で、
この乗り味。
やはり、
タイヤのチョイスと、
懐が深いバネレートが、
この乗り味を実現していると再度認識する。
ハイウェイポテンシャルが高い…
「直進性がズバ抜いている…」

踏み抜けるゾーンが近づき、
お待ちかねのフラットアウトの時間が来た。
パーシャルから一気に床奥に足を伸ばす、
993カレラとは明らかに別物の、
図太く安心感のある加速を見せ始めた。

フルブーストがかかっても、
脳ミソが引きちぎられるような加速はせず、
大きく深呼吸をしているような、
優雅で長い加速を見せる。
操っていて本当に心地よい速さ、
これが本当に20年前のクルマなのか…
「この晩のつばさ橋には上り勾配がなかったように思えた…」


ブーストは一気には立ち上がらず、
アクセル開度に合わせて、
じっとりブーストがかかり、
964ターボで聞く伝説のような、
ドッカンなそぶりは一切見せない。


いつもは、
E46のM3などが競合車だが、
このターボSだと全くもって相手にならず、
前方にいたそれらも、
一瞬でミラーの中で小さく消し込める。
同じ993でも棲む世界が明らかに違う…

993ターボの安定感なら、
リアル湾岸ミッドナイトは十分に可能だが、
マンガのように2駆の964ターボで、
あの走りを再現しようとするならば、
やはり身の毛がヨダツものがある。

「ハイパワー×ワイドトレッド×4駆」
の掛け合わせでなせるワザを見た夜だった。


ターボSの試乗で分かったことは、
薄々気づいてはいたが、
やはりC2系と4S系以上には、
明らかな、
「走行性能の方向性の違いがある」ということ。
C2系はスパスパいくインフィールド志向で、
4S系以上はズドーンのハイウェイ志向。


普段使いや、
デイリーユースを前提に考えると、
峠セクションでグリップ走行などせず、
街中やハイウェイの移動が大半なら、
ポルシェ選びは
RS系やGT3系などではなく、
ターボモデルの方が断トツで幸せだろう。

997ターボで感じたような、
クルマが遥か先にいくような異次元の速さではなく、
993ターボは確かに速いが、
「ドライバーの方を常に見ながら」
「少し先にリードしてくれるような走り」を見せる、
「まさに空冷ポルシェ」そのものだった。



993ターボに乗っていると、
後継機の996型の走行性能が何度も頭をよぎった。
(これは993カレラではまったく感じられないこと)

993ターボは、
993型のある種完成系であり、
その走行性能は明らかに996型の領域に、
片足以上踏み入れたシロモノであると、
付け加えておきたい。

見た目は993型だが、
動力性能はもはや次世代のソレを、
先取りした空冷最後のポルシェと言える。